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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/6/22 update

ミッション[宇宙×芸術] 展

東京都現代美術館 2014年6月7日(土)~8月31日(日)

《夢見るテレーズ》

 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還などによって、宇宙はほんとうに
身近になったのか。私には、にわかには信じ難い。相変わらず、地表
から8,000mも昇れば大気はほとんどなくなってしまうのだし、無重力
のなかでわずかな時間を過ごしただけで、人は容易に立ち上がれなく
なる。地球温暖化を食い止めるどころか、システムさえ満足に解明
できていないではないか。だがそうした厳然たる事実にもかかわらず、
宇宙の話題にはこと欠かない毎日だ。
人工衛星やフェアリング(ロケットの部品)など、ピッカピカの宇宙
領域資料に混ざって、参加体験型作品(八谷和彦ほか)のたどたど
しさが好ましい。アメリカで盛んな手づくりロケットに対抗して、
アーティストたち有志があつまり、有人飛行をも視野に入れた独自の
ロケットづくりを目指しているという。全長10mはあろうかという
「すずかぜ」号は、そうした実験機のひとつだろう。オモチャの
ような佇まいがかえって期待を抱かせる。
だが、あっけらかんとした風情とは裏腹に、液体燃料の燃焼実験は
危険きわまりない。わずかな操作のちがいで、いつ大爆発するか
分からないのだ。その証として、会場には爆風で溶けてしまった
カメラが何台も並べられている。サイエンスとアートをまたぐ壮大な
ミッションの、もう一つのよりリアルな顔である。
(東京都現代美術館、~H26年8月31日)
【写真キャプション】
200kgf級エンジンの地上燃焼実験の際に巻き込まれて燃え尽きたカメラ。
このカメラは高速度撮影も可能な民生用デジタルカメラで、発売直後に
あさりが購入し、鴨川での実験に用いられた。衝突型インジェクタの燃料と、
液体酸素の混合の様子をスロー映像で見事に捉え、現象の理解に多大なる
貢献をした。(同展のパネル解説より)




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/